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今後も広く受け入れられる標準的な規格が現れ、MBSEの発展に影響を与えるでしょう。ビジネス・プロセスをモデリングするビジネス・プロセス・モデリング記述(BPMN)、OMGのモデル駆動アーキテクチャ(MDA)をサポートする規格、分散シミュレーションのための規格(HLA)は、ここ数年で使えるようになりました。この領域の他の規格もまとめられつつあります。

MBSEをいち早く導入した組織では、最新の手法や技術を使って効果を上げています。例えば、購入者サイドは要求をドキュメントにまとめずに、モデルを作ります。そのモデルは、性能、環境、制約、効果の測定、品質、ステークホルダと彼らの役割、ある目的のシナリオを定義するものです。これらのモデルで表現されるシステムは、ブラックボックスを含んだ状態で求められる機能を満足することになります。納品者サイドは自身の詳細なモデルをブラックボックスと置き換えることで、そのシステムの設計、運用やリスク緩和のアプローチを含む構想を明確にします。結果、購入者サイドは、どのモデルや提案が最も要求を満足するのか判断することができます。

エンタープライズや複数のシステムのモデリングをサポートするアーキテクチャ・フレームワークが紹介されています。1980年代に発表されたザックマン・フレームワーク、アメリカ合衆国連邦政府のエンタープライズアーキテクチャ・フレームワーク(FEAF)は、いくつかの産業分野で使われています。軍事向けにはアメリカ国防総省のアーキテクチャ・フレームワーク(DoDAF)、イギリス国防省のアーキテクチャ・フレームワーク(MODAF)、NATOのアーキテクチャ・フレームワーク(NAF)があります。

システムズ・モデリングの規格が現れ始めたことはMBSEの活用法と、その目的に大きなインパクトを与えました。分りやすい例はOMGのシステムモデリング言語(SysML)とISO 10303-233アプリケーション・プロトコル(SEとデザイン、AP233)です。SysMLは複雑なシステムを記述し、設計し、分析し、評価することができるグラフィカルなモデリング言語です。OMGが2006年に取りまとめ、MBSEをサポートするツールが対応し始めています。SysMLは、OMGが取りまとめた幅広い一連の規格のうちのひとつです。これらの規格にはXMLメタデータ交換の規格(XMI)も含まれます。この規格によって、XMLフォーマットでツール間のモデリング情報を交換することができるようになりました。AP233はXMIを補うもので、ツール間でデータを交換するための規格です。SEが扱う情報の幅広さに対応するために、情報を小さなモジュールに分割して扱いやすくする方式と共に発展しました。AP233の一部はISOの規格化へのプロセスに進んでいます。

現在、多くの場合、MBSEのプロセスと方法は、SEのプロセス全体では使われておらず、活用できる場面でのみ使われています。MBSEのツールは様々なモデリング技術をサポートします。例えば、機能分析やオブジェクト指向の分析、部分的ではあるもののモデルとデータの変換に対応するものもあります。ツール環境を使いこなすには、ツールや方法ごとに大変なトレーニングが必要となります。それをMBSEが実施できるようになるまで続けなければなりません。最新のMBSEの理解がないと、ツールや方法の選定、自チームに必要なトレーニングを要求することができません。

MBSE

MBSEは体系立ったモデリングの活用法のことです。それはコンセプトデザインの検討から開発、その後に続くライフサイクルの各フェーズにわたって、システムの要件、設計、分析、評価や検査が対象になります。MBSEは、メカ、電気、ソフトウェアのような他のエンジニア領域で起こっているモデル中心のアプローチへ移行する流れの一環です。とりわけ、ドキュメント中心のアプローチに代わるものとして期待されています。これまでのシステムズ・エンジニア達はドキュメント中心のアプローチをとっており、それはSEのプロセスの定義へとまとめられ、現在のSEの活動に影響を与えています。

​2017/5/11更新

2007年9月に発表されたINCOSEの”SYSTEMS ENGINEERING VISION 2020”を引用します。
INCOSEとは、システムズ・エンジニアリング国際評議会(The International Council on Systems Engineering)の略称で、インコゼと読みます。成功するシステムを実現するために必要な、複数の分野にまたがる原理原則の研究や、事例の共有などを行う非営利の団体です。1990年に設立され、全世界で9,000人以上の会員がいます。2007年、日本にも支部(JCOSE)が承認され、活動しています。

MBSEは、よく「モデルに基づくシステムズ・エンジニアリング」と訳されます。ここでは「システムズ・エンジニアリング」について簡単に説明され、「モデルに基づく」とは、ドキュメントの代わりになるものとしています。

ここでは、MBSEを「プロセス」と「方法」と「ツール」に分けて説明しています。「プロセス」は“何をすればよいのか?”を、「方法」は“どうやればよいのか?”をガイドし、そして「ツール」は、その活動を効率化してくれます。「プロセス」、「方法」には、それぞれいくつかの種類があります。

モジュールに分けるということは、いずれどこかで分けたものを統合することになります。つまり、個々のデータをひとつのデータにまとめ上げるためのルールが必要になります。また、SEのカバーするシステムの“ライフサイクル”は幅広く、複数のツールを組み合わせた対応が必要になります。その場合は前工程から後工程へとデータを受け渡さなければなりません。ここでも同様のルールが必要になります。
他にも、要求データの受け渡しを定義するRIF、ReqIFや、サーバ間で情報をやり取りするOSLCなどがあります。

アーキテクチャ・フレームワークとは、特定の領域にある独特な慣習や注意するべきポイントなどを観点としてまとめたものです。それに基づいた具体的なシステム構成を示すものもあります。最近はDoDAFとMODAFを、UPDMと名称で統合する動きがあります。

この方法をとれば、自由なフォーマットで書かれたドキュメントを理解する手間が省けたり、そこで生じていた誤解をなくすことができるかもしれません。モデル中心のアプローチの効果を示す一例です。

前述した通り、MBSEはSEの全般をカバーするものではありません。まだモデルを効果的に運用できる部分があるはずです。MBSEは未だ完全に確立されておらず、試行錯誤が続いていると言えます。

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